退職給付会計の基礎#退職給付会計#退職給付制度入門

退職給付会計とは ―将来の退職金を今の決算に載せる理由

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退職金や企業年金を運営していると、決算のたびに「退職給付債務」「年金資産」「退職給付に係る負債」といった聞き慣れない言葉が経理から出てきます。これらはすべて退職給付会計という共通のルールに基づく用語です。この記事では、退職給付会計がどんな考え方に立っているか、いつどんな経緯で生まれたか、どの制度が対象になるかを整理します。

この記事で分かること

  • 退職給付会計の土台にある「発生主義」の考え方(お金が動いた時ではなく、働いた時に費用にする)
  • 退職給付会計が生まれた経緯(1998年公表・2000年度から適用、2012年の大きな改正)
  • 対象となる制度(退職一時金・DB・厚生年金基金・企業型DC・中退共)と、対象外の役員退職慰労金
  • 「退職給付債務」「年金資産」「退職給付に係る負債」の3つの関係
  • 確定拠出制度(DC等)は掛金=費用で会計処理が終わる理由

1. 退職給付会計とは ―「発生主義」で将来の退職金を今の決算に映す

退職金や企業年金の会計処理を定めたルールが退職給付会計です。正式には「退職給付に関する会計基準」という企業会計基準(企業会計基準委員会が定めた国内のルール)に基づいています。

このルールの土台にあるのが発生主義という考え方です。発生主義の反対は現金主義で、現金主義では、お金が実際に動いたとき(一時金を支払った、掛金を払い込んだ)に費用として処理します。これに対して発生主義では、その支出の原因となった事実が発生した時点、つまり従業員が実際に働いた時点で費用として認識します。

退職給付は、労働の対価である賃金の後払いという性格を持っています。今年1年働いてもらった分の退職金は、実際に支払うのが何十年か先だとしても、今年の決算に費用として反映させる、という考え方です。

図1 退職給付会計の基本。現金主義(お金が動いたときに費用にする)と発生主義(勤務が生じた時点で費用にする)の対比、勤務期間にわたって費用を割り振るイメージ
図1 退職給付会計の基本 ―「発生主義」で費用を勤務期間に割り振る

この考え方のもとで、退職給付会計は主に次のことを行います。

  • 将来支払う退職給付の総額のうち、現在までの勤務に対応する分を見積もり、今の価値に割り引いて退職給付債務という額を計算する(別の記事で詳しく扱います)
  • DBなどで外部に積み立てられている年金資産を、退職給付債務の一部が確保されたものとして扱う
  • 両者の差額を、貸借対照表に負債(または資産)として計上する
  • 毎期の費用(退職給付費用)を、勤務費用・利息費用・期待運用収益などの要素に分けて計算する

これらの計算は専門性が高いため、数理計算の委託先(信託銀行・生命保険会社・コンサルティング会社など)に委託するのが一般的です(会計基準が外部への委託を義務づけているわけではありません)。いずれにしても、どんな会社の制度でも同じ考え方・同じ枠組みで会計処理を行うという点をまず押さえておくと、別の記事で扱う各要素が理解しやすくなります。

2. 退職給付会計が生まれた経緯 ―2000年度に始まった制度

退職給付会計は、実はそれほど古い制度ではありません。導入前は、退職一時金と企業年金とで会計処理がまったく別々に行われていました。

図2 退職給付会計が生まれるまでの年表。昭和43年の退職給与引当金、平成10年6月の会計基準公表、平成12年度からの適用開始、平成24年改正、平成28年改正
図2 退職給付会計が生まれるまで

1968年(昭和43年)に公表された意見書は、会社が直接支払う退職一時金だけを対象にしたもので、企業年金制度による給付には明確な会計基準がありませんでした。そのため、企業年金の掛金は「払った月の費用」として処理する実務が広く行われていました。

その後、企業年金制度が広がり、退職一時金の一部を企業年金に置き換えて両方を併用する会社が増えたことから、退職給付を包括的に扱う会計基準の必要性が高まりました。こうして1998年(平成10年)6月に「退職給付に係る会計基準」が公表され、2000年度(2000年4月以後に始まる事業年度)から適用されました。公表から適用までは約2年の準備期間が置かれています。

この基準の導入によって、それまで見えにくかった会社が背負っている退職給付の債務の大きさが財務諸表に表れるようになり、企業の評価や、退職給付制度の設計そのものに影響を与えるようになりました。その後も見直しが重ねられ、2012年(平成24年)には、国際的な会計基準との差異を縮めるための大きな改正が行われています(未認識の差損益の扱いなどが変わりました。詳しくは別の記事で扱います)。基準そのものの最終改正は2016年(平成28年)で、リスク分担型企業年金の導入にあわせて確定拠出制度の注記事項が整備されました(その後は、他の会計基準の公表に伴う修正が反映されているだけです)。

3. 対象となる制度 ―確定拠出制度と確定給付制度

退職給付会計は「一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付」に適用されます。会社が持っている退職給付制度は、まず確定拠出制度と確定給付制度のどちらかに分類されます。

図3 退職給付会計の対象となる制度。確定給付制度(DB・厚生年金基金・退職一時金)と確定拠出制度(DC・中退共等)、対象外の役員退職慰労金
図3 退職給付会計の対象となる制度

確定拠出制度とは、一定の掛金を外部に積み立て、会社がその掛金以外に追加の拠出義務を負わない制度のことです。企業型確定拠出年金(企業型DC)、iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)で会社が出す掛金、中小企業退職金共済(中退共)がこれにあたります。従業員が自分で掛金を出すiDeCo(個人型確定拠出年金)は会社の制度ではないので、退職給付会計の対象にはなりません(給与天引きで会社が掛金の納付を代行している場合も、会社の退職給付費用にはなりません)。一方、確定給付制度とは確定拠出制度以外のすべての退職給付制度を指し、確定給付企業年金(DB)や厚生年金基金、会社が直接支払う退職一時金が含まれます。なお、DBのうちリスク分担型企業年金(運用リスクの一部を加入者も負う仕組み)は、一定の要件を満たせば確定拠出制度に分類されます。

なお、複数の会社が共同で設立する総合型のDBなどでは、制度全体の年金資産等のうち自社の負担に属する部分(自社の分)を合理的な基準で計算できる場合は確定給付制度として扱い、計算できない場合は確定拠出制度に準じて、その期に払うべき掛金を費用として処理します。

一方で、退職給付会計の対象外になるものもあります。株主総会の決議や指名委員会等設置会社の報酬委員会の決定で額が決まる役員の退職慰労金は、「労働の対価との関係が必ずしも明確でない」という理由で対象に含まれません。

4. 退職給付債務・年金資産・退職給付に係る負債の関係

確定給付制度(DB・厚生年金基金・退職一時金)では、次の3つの言葉の関係を理解しておくと、決算書の見方が変わります。

図4 退職給付債務・年金資産・退職給付に係る負債の関係。退職給付債務から年金資産を控除した額が退職給付に係る負債(積立不足の場合)または資産(積立超過の場合)になる
図4 退職給付債務・年金資産・退職給付に係る負債の関係

退職給付債務は、将来支払う退職給付の総額のうち、現在までの勤務に対応する部分を、今の価値に割り引いて計算した額です。かみ砕いて言えば、「将来払う退職金の今の値段」にあたります。

年金資産は、DBや厚生年金基金などで、退職給付の支払いに充てるために、信託銀行や生命保険会社といった外部の機関に積み立てられているお金です。会社の外にあるお金なら何でもよいわけではなく、退職給付以外には使えないことなどの要件を満たしたものに限られます。会社の財産から切り離されているため、退職給付債務の一部がすでに確保されたものとして扱われ、退職給付債務から差し引きます。

この差額が、退職給付に係る負債(または資産)として貸借対照表に計上されます。年金資産より退職給付債務の方が大きければ「積立不足」で負債に、逆であれば「積立超過」で資産になります。退職一時金のみの制度で、年金資産として扱われる退職給付信託(会社が保有する株式などを退職給付に充てるために信託したもの)も設定していない場合は、差し引くものがないため、連結財務諸表では退職給付債務がそのまま負債として計上されます。

なお、「退職給付に係る負債」は連結財務諸表(グループ全体の決算書)での名前です。会社単体の決算書(個別財務諸表)では退職給付引当金という名前で計上され、まだ費用にしていない差異の扱いなどが連結とは異なります。このため個別財務諸表では、年金資産がない場合でも、引当金の額が退職給付債務と一致しないことがあります(詳しくは別の記事で扱います)。また、従業員数が原則として300人未満の会社などでは、数理計算を使わない簡便法も認められています。

5. DCは掛金=費用で終わる ―確定拠出制度の会計処理

ここまでの退職給付債務や年金資産の計算は、すべて確定給付制度の話です。確定拠出制度(DC・中退共等)の会計処理は、これとは対照的にとてもシンプルです。

図5 確定給付制度(DB等)と確定拠出制度(DC等)の会計処理の違いを、会社の負担・貸借対照表・毎年の費用・必要な専門家の観点で比較した表
図5 確定給付制度(DB等)と確定拠出制度(DC等)の会計処理の違い

確定拠出制度では、その期間に払うべき掛金の額(要拠出額)をそのまま費用として処理します。退職給付債務のような見積もり計算は必要なく、掛金をまだ払っていない分があれば未払金として計上するだけです。会社にとっては、掛金を払えばその制度に関する会計上の義務が完了する、というシンプルな構造です。

ただし、確定拠出制度についても、採用している制度の概要や、それに係る退職給付費用の額などを財務諸表に注記することが求められています。会社の退職給付制度がDCのみであっても、退職給付会計の枠組みそのものと無縁というわけではありません。

実務上の注意点

退職給付会計は、人事部門だけで完結する話ではなく、経理・財務部門、年金数理人、会計士など複数の立場がかかわります。制度を運営するうえでは、次の点を押さえておくと決算対応がスムーズになります。

  • 自社の退職給付制度が確定給付制度か確定拠出制度かを整理しておく。DBと退職一時金は確定給付制度、DCと中退共は確定拠出制度(リスク分担型企業年金は要件を満たせば確定拠出制度)で、必要な計算・開示の重さがまったく異なります
  • 確定給付制度がある場合、決算のたびに退職給付債務の計算が必要です。数理計算の委託先に渡す人事データの締め切りと、計算結果が経理部門に届く時期を、決算スケジュールとあわせて確認しておきます(データの提供については別の記事で扱います)
  • 制度を複数併用している場合(例:退職一時金+DC、DB+DCなど)は、制度ごとに会計処理が分かれることを理解しておきます
  • 退職給付会計は改正が重ねられてきた分野です。自社が適用している基準の版や、直近の改正で変わった点は、決算のたびに会計士に確認するのが安全です

まとめ

  • 退職給付会計は発生主義に立ち、退職給付を「労働の対価の後払い」として、働いた期間に費用を割り振る
  • 1998年に会計基準が公表され、2000年度から適用。2012年に国際的な会計基準との差異を縮める大きな改正があった
  • 対象となる制度は確定給付制度(DB・厚生年金基金・退職一時金)と確定拠出制度(企業型DC・中退共等)の2つ。役員の退職慰労金は対象外
  • 確定給付制度では、退職給付債務から年金資産を差し引いた額が、負債(積立不足)または資産(積立超過)として貸借対照表に計上される
  • 確定拠出制度はその期に払うべき掛金=費用で会計処理が完結し、退職給付債務の計算は不要
  • 自社の制度がどちらに当たるかを整理しておくと、決算での経理・数理計算の委託先とのやり取りが理解しやすくなる

出典・参考

本記事は制度の概要を分かりやすく説明することを目的としており、個別の会計処理は自社の会計方針や、会計士・数理計算の委託先にご確認ください。

退職給付の基礎 記事一覧

退職給付制度の基礎を扱う記事です。順番に関係なく、必要なところから読めるように書いています。

分野 記事
全体像 退職給付制度とは何か/日本の年金は3階建て/退職給付制度の種類マップ/DBとDCの違い/企業年金の歴史/退職金制度の構成を読み解く:内枠と外枠
企業型DC 制度の基本 企業型DCの仕組み/企業型DCの登場人物/企業型DCの導入手続き(準備中)/規約変更の手続き(準備中)/制度の見直しと終了(準備中)/令和7年改正で企業型DCはどう変わるか(準備中)/DC制度の歩み
企業型DC 加入者 加入者の範囲/入社・退社のときのDC事務(準備中)/休職・育休のときの拠出中断/勤続3年未満で退職したら:事業主返還
企業型DC 掛金 事業主掛金の決め方と納付(準備中)/マッチング拠出(準備中)/拠出限度額(準備中)/選択制DC(準備中)/DBと併用する会社の拠出限度額:他制度掛金相当額(準備中)
企業型DC 運用 運用商品の選定と提示(準備中)/指定運用方法(準備中)/投資教育(準備中)
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DB 運用と責任 DBの資産運用(準備中)/DBの受託者責任(準備中)
DB 変更・移行・終了 DBの規約変更(準備中)/DBの給付減額(準備中)/DBとDCの間の資産移換(準備中)/DBの終了と清算(準備中)
退職給付会計 退職給付会計とは(この記事)/退職給付債務をかみ砕く/年金資産と退職給付に係る負債/退職給付費用の中身/計算基礎/人事データ(準備中)/簡便法(準備中)/仕訳と決算(準備中)/注記(準備中)/制度を変えると会計はどうなる(準備中)
年金税制 退職給付の税制は3段階(準備中)/退職所得控除(準備中)/掛金の税務と社会保険料(準備中)
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